top of page

レンダーはリスクを取らないか?

kazuhikokazama

もう10年も前の話になるのですが、再生可能エネルギーに関連する某セミナーに登壇したことがあります。セミナーの後半で、当日の登壇者が会場からの質問を受けることになりました。登壇者として参加していたある金融機関に対して、会場の若い人から質問があり、「金融機関はリスクを取らない。それでは再生可能エネルギーは拡大しない。」云々の若干感情交じりの不満というかクレームめいた質問が出ました。責められた金融機関側がどのような回答をしたのか、その内容の詳細は忘れましたが、回答に窮していたので私が助け舟的に「金融機関がリスクを取れるよう、事業者側で事業を構築することが重要」である旨のコメントをした記憶があります。


借入の相談に行ってもけんもほろろな対応で断られてしまったという経験をすれば不愉快な思いをするでしょうし、金融機関に対して恨み節になる気持ちもわからなくもありません。しかし、金融機関、特に貸付(Debt)を供与する銀行等のレンダーがその理念(例えば再生可能エネルギーを普及させて地球温暖化に資する事業を行いたい等)だけを評価して無批判に事業リスクを取ることはありえません。


コーポレートファイナンスであれば、対象となる事業のリスクよりも、その事業を行う企業の信用力をベースに貸付を提供するので、個別事業のリスクについてはさほど議論にならないでしょう。一方で、プロジェクトファイナンスでは、個別事業そのものにDebtを供与するので、当該事業が破綻すれば貸金は回収できません。プロジェクトファイナンスの場合、当該事業の総事業にDebtが占める割合は70%~90%にもなりますので、プロジェクトファイナンスによるDebtを供与するレンダーは、その事業の最大の債権者且つ事業が破綻した場合に一番影響を受けることになります。


従い、プロジェクトファイナンスのレンダーが、無批判にリスクを取って貸付を行うことは困難ですし、金融庁検査や日銀考査といった与信管理体制をチェックされる立場にある金融機関は、ずさんな審査で貸付を行うことはできません。ずさんな融資を行った銀行が信用不安に陥れば経済への影響も甚大で、金融行政の面からも野放図な融資を認めないというのもわかります。このような背景から、(プロジェクトファイナンスを含めて)そもそもDebtというものはリスク許容度が低い資金なわけです(それでもDebtがないとCAPEXが重いインフラ系の事業は実現しません。)。世の中には、この辺の説明をしたものがいくらでもありますので、今更感はあると思いますが、図式すると次のようになります。



元々は海外から輸入された金融手法ですが、1990年後半に国内初のプロジェクトファイナンスが成立して以降、プロジェクトファイナンスの審査基準や格付手法はアップデートを繰り返しながらも確立され、今日の日本の大手銀行・大手地銀行等であればほぼ標準化されていると思います。その審査基準に基づいて、事業を構成する要素を一つ一つ検証していくことになります。


世の中には、プロジェクトファイナンスを「リスクを取る金融手法」と誤解されている方がいらっしゃいますが、それは間違いです。プロジェクトファイナンスは、リスクコントロール、リスクアロケーションの手法です。

ž あるプロジェクトについて、資金調達から事業遂行に至るまでの全てを一企業で行う場合、当該プロジェクトに伴うリスクは全てその企業が負担。

ž 一方、プロジェクトファイナンスでは、当該事業のリスク要因を徹底的に検証・抽出、各リスク要因をプロジェクト参加者の間で分担(リスク・アロケーション)することにより、各々が負担するリスクを最小化することが可能。

ž 各リスクの分担については、関連諸契約で明確に規定 (文書化=ドキュメンテーション ⇒ 詳細は次頁ご参照)。

結果、プロジェクトファイナンスでは、レンダーが事業を構成する各種契約(オフテイク契約、EPC契約、OM契約、燃料契約、土地契約、保険契約等々)に微に入り細に入りコメントをしてくることになります。


自身が企画立案した事業を銀行に否定されれれば誰しも不愉快に思うのはよくわかります。しかし、金融機関への恨み節に時間を費やすよりも、そして自らが企画した事業に自信があるのであれば、銀行が対応できる形にチューニングすることに尽力すべきかと思います。素材がどれだけ良くても、上手に調理して美味しい料理に仕上げて銀行に食べてもらえなければ、事業は実現しません。事業を構成するパーツ(素材)を一つ一つ丁寧に検討して(その作業は積み木を一つ一つ積み上げるようなものに近いですが)、プロジェクトファイナンスに合致するよう事業を構築(料理)していくことに注力する、そして、こういうプロセスを通して融資可能(bankable)な形にしていくことこそが、プロジェクトファイナンスにおける「ストラクチャリング」ということになります。


「ストラクチャリング」のプロセスにおいて、レンダーからの要請に「こういう形でご理解頂けないか」と交渉するのも弊社の役割ですが、「どうしてレンダーがこういう要請をしてきたのか」を事業者に理解してもらえるよう(レンダーに代わって)事業主を説得するのも弊社の役割です。特に、初めてプロジェクトファイナンスに接する事業者の場合、レンダーとの間で会話が成立しないことも多く、この点では弊社は通訳のような役割を担うこともあります。最後は、弊社の宣伝でした。

有限会社プロジェクト・ソフィア&コンサルティング

〒176-0002 東京都練馬区桜台1丁目24-15ナビ新桜台3階

©︎ 2023 有限会社プロジェクト・ソフィア&コンサルティング 

bottom of page